暑い暑いと鳴いていた二、三日前までがウソの様に肌寒く一旦出た、玄関にすぐ舞い戻ると、間に合わせのパーカーを羽織り、再び家を出た。
前から行ってみたいと思っていた公園に向かう目的だ。
これから出勤であったり、登校であったり様々な制服姿の人々で鮨詰め状態の電車内は決して居心地が良い訳ではなかったが、これから私は暢気に公園に出かけるのだと思うと少しも苦ではなかった。
幾つかの電車を乗り継ぐと、車内も随分と人気が無くなり座席に腰を下ろすと、窓の外はもう都心ではなく結構な田舎になっている。
柔らかな太陽も空の高いところに位置し、電車を降りると暖かかった。
駅からその公園までは徒歩15分ほどの場所にあるが、真っ直ぐに向かってしまっても時間がありありなので、少し大回りをして近くの商店街を散策する事にした。
近くに大きな神社があるこの商店街ではその神社の名前が付いたお饅頭やお煎餅が軒先で焼かれていて、香ばしい香りが鼻を誘う。
季節外れの風鈴がチリンと揺れるお店の前でふと足を止めると、お団子を焼いているおばさんと目が合った。
「こんにちは」
軽く会釈すると「美味しいよ~」とおばさんは手元のお団子を印籠のように翳して見せた。
「うわ、ほんと」
「焼けるまでもうちょっとかかるからそこで腰掛けてて」とおばさんがコナした店内のベンチに座ると、「この辺は初めて?」聞かれたので「はい」と答えた。
「どっから来たの?」
「東京です」
「あらそう、一人?」
「はい」
「お参りかなんか?」
「それも兼ねてブラブラお散歩しようかなって」
「あ~そう、じゃあ日帰りだ?」
「そうですね」
「そう、じゃあこれゆっくり食べてきな」と差し出されたお団子は砂糖しょうゆがこんがりと焦げていて口に入れなくても美味しい。
「今、お茶入れたげるから」
「あ、すいません」
さっさとお団子を食べてお店を後にしようと思っていたのが、殊の外、私以外にお客様が来なかったので、「この辺りでお勧めの場所とかあったりします?」などと話していると、つい長くなってしまった。
「すいません、ご馳走様でした」
「いえいえ、またいらっしゃい」
おばさんはそう言うと商店街を向けた先にある小さなお寺がお勧めだと教えてくれた。
そこにはリスが住んでいて、いつ行っても見られるのだと言う。
「へぇ~素敵ですね、公園の前に行ってみます」
私はそのお店を後にすると、真っ直ぐに商店街を抜け、教えられたお寺を目指した。
携帯のナビが云うにはこの辺りらしいがお寺らしい建物は見当たらないし、少し前に商店街も抜けてしまったので、聞きに戻るのも何だと思い、第一希望の公園に向かうことにした。
一日掛けても回りきれないであろう広大な敷地を誇るその公園は東西南北にそれぞれ立派な入り口があり、緑の芝生と随分葉の落ちた木々が果てしなく空に続いている。
これほどシンプルで何も無い景色は美しくもあり、砂漠の様にも感じられた。
入り口に立てかけられていた掲示板には公園の中央に噴水があるとあったので、そこを目指し歩く事にした。
手にしたデジカメの電源を入れると、始めに空に向けてシャッターを切ったが、写真で見るよりも実物の方が良い、という言葉がぴったりだ。
特に空はそうだと思う。
カメラを手にしてまだ一年も経たない私がいうのも何ですが、暇さえあれば空の写真を撮っても撮っても、どうも肉眼で見えているこの空には遠い。
人物であったり、物であったりすると、そうでもないのに。
まだ若葉マークの私には大物過ぎるのか?
悔しいのでもう一度シャッターを切ってみたが、変わらないので、手に触れられるモノにレンズを向ける事にした。
散歩する犬、佇む木、静かに咲いている花。
時々自分。
それから子一時間ほど歩き、やっと辿り着いた噴水広場はザーッと豪快に水が吹き上がっていて、細かい粒子に日の光が交差すると小さな虹が掛かった。
普段あまり見れないものを見ると、人知れずテンションが上がる。
そのすぐ傍で毛づくろいする野良猫と芝生の上にシートを広げてイチャつくカップル。
普段なら目にも留まらないが、こうして無心に見ていると、平和だな~としみじみ思う。
足元で地面を突いて回る数羽の鳩がそれを象徴するようだ。
何気なくレンズを向け、プレビューしてみると、近所でも撮れそうな一枚だったが、今日撮った写真の中では一番だと思う。
このまま無条件に眠ってしまえたらさぞかし気持ちが良いのだろうと想像しながら暫くボーっとした時間を過ごした。
コメント
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れおんさん!
今晩は。このお部屋はまだ出来てないのだと思っていて、やっと昨日存在に気づいたんです。
まだこの日記しか読んでないけれど、硬質な文章を書くんですね。
僕は海外の古典が好きで、トルストイとかケルアックとか読むんですけど、れおんさんはどんな本を読むのかな?
そんなことでもどんなことでも、あれこれ語ってほしいな。
この日記は、よく考えたら特になにも変わった風景がありませんよね。変わったこともないのに、やっぱり感じることはある。
あんまり感情は抑えられた、淡々とした文章なのにね。
れおんさんは、分からない。
分からないけど、惹かれるものがあります。本当にこの時代のなかで独立して生きてる人間はいません。れおんさんは、珍しい人だと思う。
僕は大抵の人をみると、その人がなにが好きで、どんなタイプ(系統?)なのか、すぐに奥が見えてしまって、つまらないと思うことがあるんです。
でもれおんさんは誰とも似てないし、分からないから、なんだか安心します。こんな人がいるんだなあって。
またコメントしますね。ありがとう!
Nantsu
2012年10月01日
文章上手ですね (^ω^)
空の写真の話、分かります。どんな写真も実物にはかなわない…、まるでれおんさんですね
あ、そうだ! 川畑要さんのPV見ましたよ♪ すっっっごくキレイでした それにれおんさん、ほんとに演技力ありますね~。僕は見とれっぱなしでした。
あのPVの主役は川畑さんじゃないです。れおんさんですよ