すーっと背筋が凍って行くような小説
『月の裏側』(幻冬舎)を読みました。
恩田陸さんの作品です。
九州にある水郷都市、箭納倉(やなくら)を舞台に
謎の失踪事件を追うミステリー。
ある日突然消えてしまう人たちは、
皆、掘割りに面した家に住み、
ある日また突然、帰ってくる。何事もなかったかのようにして。
本人たちは失踪していた間に記憶がすっかり抜け落ちているという奇妙な共通点が…。
冒頭からこんな事件が語られて
ぞくぞくする話なのですが、
最後は…
きゃー
私、大丈夫かしら。
私は本当に私?
私の隣にいる人は?
うちのウィルや海、森は?
…
ぞぞぞぞ~
この事件を解明しようとしている4人も
だんだんと恐怖に巻き込まれていきます。
「そもそもあたしがあたしでないというのは、どういうことなのだろう。あたしは何も変わらない、少なくとも今のところ性格も声も顔も記憶も変わっていない、なのにもうあたしではないのだろうか?あたしとはなんだろう。あたしとは、誰だったんだろう。」
自分が自分であることに
次第に自信が持てなくなっていく4人。
そもそも自分を自分であると決定づけるものというのは
一体なんだったんだろうか。
顔?声?考え方とか性格とか過去の記憶?
本人かどうか確認する時に
本人じゃなければ知り得ないような過去の体験についての質問がされたりしますよね。
でもその記憶さえもすっかり埋め込まれて、
その上で実は自分が、思い込んでいた自分自身とは全く別のものだったなんてことになったら…
誰にもそれは証明できないし、
自分自身が、今の自分と思い込んでいるものであると断言もできない。
アイデンティティ
自己同一性に触れる部分が
根底から揺らされる時
人間はとてつもない恐怖に襲われるのかもしれないと思いました。
誰にもわからない。
自分が自分に対して説明してあげるしかないし、
それを自分で信じてみるしかない。
だからこそ強いものでもあり
だからこそ脆いものでもあり。
私は私。
そのことを証明するのは
私自身がまず、しっかりと確証をもって
私というものを建てられていなければ。
それでもやっぱり
このミステリーの結末のように
私はもう、思っていた私ではないのかもしれないのだから。
最後までノンストップのミステリーが読みたい!
そんな秋の夜に。
読んでる人に
「昨日何してたのか思い出せないんだよね~」
なんて話しかけたら
想像以上に
びくっ
とされること間違いなしでしょう。
横レス
>宇宙人の宇宙基地があるというお話の本が
あったように記憶しています。
この本、持ってますよ。(笑)