「吉田博」展@損保ジャパン日本興亜美術館

8月頭ころに行って来た展示

「吉田博」展

生誕140年を記念して行われた回顧展で
吉田の作品が初期から晩年までずらりと並びました。

版画の作家なのかと思って観に行ったら、
初期は水彩画がとても多くて
その繊細さ、緻密さに驚きました。


作品が作られた順に見ていくと
吉田にとって生涯、水彩画やデッサンがとても重要な位置を占めていたような気がして来ました。

版画作品にもいろいろなものがあり、古典的なものであれば浮世絵もその一つ。

吉田の版画は多色刷りなので浮世絵の手法とも似ているのですが、その版を重ねる回数が桁違いに多い。そして刷りの段階で微妙なニュアンスも表現されて行きます。

自宅を工房にして、刷り師が刷るときにすぐ近くで指示をだしていたため、
自分で手を動かして刷ってはいないものの、「自摺」と書かれています。
この考えを見たときに、現代の写真プリントの作品にも似ているなあと。
作家が許可を出した仕上がりのみ、サイン入り、エディション付きで世の中に作品として流通する。


49歳から版画をはじめた吉田は
20年間で250点もの版画作品を残したそうです。
すごいエネルギーですよね。

彼は生涯を通してアグレッシブで
当時の周りの日本人からしてみたら
とんでもない、ぶっ飛んだ人だったのかもしれません。

なにしろ、アメリカに片道切符と1ヶ月の生活費と作品を持って乗り込んでしまうような人だったのですから。

もちろん、彼の中でちゃんと計算されていて、勝算があっての上での渡米だったようですが、
なかなか、勇気のいること。
結果的に、33点の作品を売ることに成功して、1000ドルを超える売り上げとなったようで、
そこから、そのお金を元手にどんどん挑戦に挑戦を重ねていくんです。

吉田博の作品も本当に素晴らしく、美しく、家にあったらいいなあと思うものも多かったのですが
何よりも、彼のその生き様が格好良くて、
もっともっとギリギリまで挑戦していかなくてはという気持ちにさせられました。



最後に
お気に入り作品を挙げていきます。


《マタホルン山 夜 欧州シリーズ》(個人蔵)
大正14年に作られた木版画ですが
これは《マタホルン山 欧州シリーズ》という昼間を描いた作品と全く同じ版木を用いて、色を変えることによって夜を表現した作品です。

吉田の作品にはこうして、同じ版で色や刷り方を変えることで違う作品に仕上がる「別摺」というものがたくさんあります。
どの「別摺」もとても魅力的で、特に今回のように昼と夜を表現したものは2枚ついにして飾りたくなります。




つぎは

《神楽坂通 雨後の夜 東京拾二題》(個人蔵)
昭和4年に作られた木版画です。
雨の夜の路面、建物から漏れる光の雰囲気が、とてもしっとりとした作品です。
観ている自分も、今しがた雨が上がったばかりの路上に傘を持って立ち、少し濡れた足元からヒンヤリとした空気が上がってくるような、そんな臨場感に包まれる一枚でした。




最後はやっぱりこれかなあ

《渓流》(千葉市美術館蔵)
昭和3年に作られた木版画なのですが
版画作品としては大型のものです。
水の流れる様子を描いた繊細な線と、しぶきをあげながら落ちる水の絶え間なく変わる色を、余すところなく版画で表現しています。
ごおーっという川の音が聞こえて来そうです。




ということで今回もどうにか3点に絞りました。
他にももちろん、素晴らしい作品は山ほどありましたし、版画や水彩画の繊細さは図録やネットのデータではとても伝えきれないものがあります。
ぜひ、近くでじっくり堪能していただきたいです。


水彩画を極めた人が
版画に挑戦した結果
全く新しい版画の世界が開けたのでしょう。

圧倒的な透明感と、
吉田のエネルギーにたっぷりと包まれて帰りました。
本当に行って良かったなあと思う展示でした。











ここだけ写真撮影可でしたよ👍






吉田博展
http://www.sjnk-museum.org/program/current/4778.html




というわけで


アート観賞
2017年の44件目
8月の1件目

青森県立美術館の前に行っていたのでちょっと前後しちゃいました。





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コメント

今日のお話は、大変参考になりました。。。そして、機会があったら、私も、ぜひ作品を見たいなぁ、と思いました。

ま-みる 2017年08月26日

水彩画は下絵と絵の具のグラディーションがいいですよね
こういう絵の立体感はすごいですよね
才能なんでしょうね

Kyo 2017年08月26日

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