『空白の五マイル』

ノンフィクションの作品も大好きです。
どきどきわくわく、ぐんぐんと次のページをめくらずにはいられない本を読みました。

『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)
角幡唯介さんの本で
第8回開高健ノンフィクション賞を受賞した作品でもあります。

ツアンポー峡谷の探検の歴史は
1878年から記録が残っています。

角幡さんは「空白の五マイル」と言われた
誰も探検したことがなかった部分を
自分の足で、ほぼ全てと言ってもいいほどのエリアを踏破された方です。

「空白の五マイル」は
1924年にイギリスの探検家フランク・キングドン=ウォードが
虹の滝と、ブラマプトラの滝を発見した後、
探検出来なかったエリアに付けられた名前です。

角幡さんは3方向からのルートで
この「空白の五マイル」に挑戦しました。

この時の探検で角幡さんが
地元の人から「ホクドルン」と呼ばれる
広い台地の下に大きな洞窟がある場所にたどり着きます。
そのシーンは、読んでいて、
言葉としては熱弁はしていないのに、
淡々としながらも
ものすごく熱い想いが伝わってきます。

このホクドルンが、
チベットに昔から言われている桃源郷のような場所「べユル・ペマコ」のもととなった場所の可能性は否定しきれないと
私自身も読んでいて想像してしまいました。

「このホクドルンの地がはたして本当にベユル・ペマコなのかどうかは、私には分からない」

としながら
「シュリーマンが発掘したトロイアの遺跡のように、ベユル・ペマコが伝説だとしても、伝説を作りだす現実としての根拠があるに違いない。あるとすれば、自分が今いるホクドルンがそれにあたるのではないか。そう思ったのだ。」

と述べています。

シュリーマンの『古代への情熱』と日本語訳されている本は
私も小学校の読書感想文での課題図書として読んだことがあったので、
なるほど、と思いました。

全く事実無根の伝説だけが
ある日突然空からひょいと降って来るわけではなく、
何らかのベースとなるものは、あるはず、と考えると
いろいろと見えてくるものがあるんですよね。
それが随分形を変えて、尾ヒレをつけて、拡大されたものとして
語り継がれている場合が多いとしても
何らかの素が、全くないわけじゃないだろうと。



「だが今考えると、ホクドルンの洞穴が何を意味するのか、もしくは何も意味しないのか、そんなことはどうでもいいことだったのかもしれない。ひとりで旅をして、そこにそれを見つけた。それが何を意味するかは私自身の問題であり、脚色したり、意味づけしたり、社会性をもたせたりする必要などまったくなかった。あるのは、わたしはそこに行ったのだという事実だけであり、たしかなのは、私にとってホクドルンというところが特別な場所になったということだけだった。」


この静かでありながらも
ぎゅっと足の指で地面を掴むような強さ。
心に響きました。

この文を読んで、
角幡さんのノンフィクションン作品を読んで
よかったなあと思ったし、
他の作品も読んでみたくなりました。

この作品は
もちろん、タイトルの通り、
チベットにある、どんな探検家たちも苦戦してきた
ツアンポー峡谷のすばらしさ、過酷さを物語るものではあるのですが、

それ以上に、
探検家たちの、一人の人間というものが
浮かび上がって来る作品だと感じます。

ツアンポー峡谷の探検を終えた角幡さんが語る
生きることについても
自分に置き換えて、胸に残ります。

「あらゆる人間にとっての最大の関心ごとは、自分は何のために生きているのか、いい人生とは何かという点に収斂される。いい人生とは何だろう。私たちは常に別々の方法論、アプローチで、それぞれに目的をかかげていい人生を希求している。」

難しいことですが、
本当に、自分にとって何が幸せなのか、
ゴールを探し続けているんですよね。

そして、大人になるにつれて
成長しているはずなのに
迷子になっていく。
大人はみんな迷子なのかもしれません。
迷いながら、探して行く。
迷ったからこそ、見つかった時の喜びは、一際大きいかもしれません。

「死が人間にとって最大のリスクなのは、そうした人生のすべてを奪ってしまうからだ。その死のリスクを覚悟してわざわざ危険な行為をしている冒険者は、命がすり切れそうなその瞬間の中にこそ生きることの象徴的な意味があることを嗅ぎ取っている。冒険とは生きることの全人類的な意味を説明しうる、極限的に単純化された図式なのではないだろうか。」

と角幡さんは語っています。


「生きることの象徴的な意味」

大人は
迷子になりながらも、
日々、必死に、自分が生きているということを
掴みとろうともがき続けているのかもしれません。

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