短編文章 2 両翼の翼

スクランブル交差点。ビル。ビル。ビル。人。人。人。
地上にいても息苦しい。空気を吸いたくて上を向いても届かない。

ほんのわずかな隙間から小さく切り取られた空が見えるだけ。
人間が窮屈な空箱に、ハコヅメにされているような気さえしてくる。

“出荷シマス。右二ナラエ。列カラ乱レルナ。
破損ガアリマス。破棄シマス。”

ロボットのように無機質で冷酷な社会。仮面をつけた表情の見えない人間。モノによって支配され欲によって蝕まれていく。
欲望の渦に飲まれていくようにこの街にはどこからともなく人間が集まる。ネオンや餌に釣られた夜光虫のように、何かを求め浮遊し
また何処か別の場所へ群れていく。

人はみなどこからやってくるのだろうか。
人は何のためにここへ来たのだろうか。

やみくもに心の声を問いかけても囲まれた高い壁によってその声は遮断され
跳ね返っては自分自身に戻ってくる。
本当にこの場所が、夢見る青年の両翼の翼を広げ、羽ばたける街なのだろうか。
「志のある者は磨かれろ。流されるな」
自分を見失わないために奮い立たせる。自分自身に喝を入れる。ここには汚れたものと綺麗なものがあらゆる場所に散らばっている。しかし胸を打つものは見当たらない。いつの間にか自分の心も沈んでいく。本物も偽物も両極のものが混在する街だ。ここに居ると品定めをするように物を、そして他人を見定める癖がついていく。

〔真髄だけを見据え、美しいものを感じ、真実をその眼で見るのです。その手で拾い集めなさい。その脚で歩きなさい。その声で、伝えなさい〕

あのわずかに見える空からそんな声が聞こえる。
地上には数えきれない山ほどの問題がある。
人々の迷いは消えることはない。

しかし、天を見上げればそこには青々とした空が広がっている。

なにひとつ汚れのない清廉な空は、だだただ澄んで果てしなくそこにあるだけだ。
ー…この空に欲望なんぞどこにあろう。見栄に生きて何になる。

人生にはなにも言わずとも道を啓示してくれるものがある。
そこに目を向けることができたのなら
人は陰りのない世界で生きていけるはずだ。

若き青年が空を見上げてくれることを祈る。

コメント

都会には偽物がたくさん。そして本物も。お金、肩書き、大きな看板しょって勘違いしている人やそれに群がる人。世の中を動かすメディアも。自分自身の見る目を養い、流されずに磨く事が大切ですよね。たくさんの人に読んでほしい短編小説だと思いました。絶望だけでなく、希望とメッセージが散りばめられている悠里江さんの文章好きですよわーい(嬉しい顔)

Helmut 2012年08月03日

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