『かけら』

短編集を読みました。

『かけら』(新潮社)
青山七恵さんの小説です。
「かけら」
「欅の部屋」
「山猫」
3つの短編から成ります。

タイトルにもなっている「かけら」がとても印象的です。
父と娘が二人でバスツアーのサクランボ狩りに出かける1日を描いた作品。
娘の視点で語られています。

「あんなふうに父が人を助けるところを始めて見た。」

父親の、普段家族の前で見せていない一面を
ちらりと見た時、
なんとも不思議な気持ちになるものです。

私も、父が仕事をしている時の様子を
写真でみたり、会社の人と話している時の様子を
ちらっと見た時には
なんとも言えない違和感を感じました。

確かに、父は仕事をしているのだし、
理屈ではわかっているんですが、
自分自身が接してきた父親という姿は
いつもニコニコしていて
優しくて、ゆったりしていて、
大きな声も出さないし、
とにかく温かくて優しいオーラに包まれているような人
というイメージしかないんですよね。
小さい頃からずっと見てきたので、
ある意味、知らず知らずのうちに
勝手に自分自身を洗脳していたのかもしれません。

「かけら」の中の娘は
写真教室に通い、次の教室までの宿題のテーマが
「かけら」だと言います。
娘は何かが壊れた断片、ガラスのかけらや、看板の割れた後のかけら
などがテーマだと思っているのですが、
最終的には全く違う写真を教室に提出することになります。

父親が、さくらんぼをとる姿が
意図せず遠くに写り込んでいた写真です。
他のツアー参加者にせがまれて、父親が
高い場所にあるサクランボをとってあげている様子。

父親というのは特別な存在なのかもしれません。
母親とも兄弟とも、全く違う存在。

父親が家族に見せる姿と、
家族がいない時に他人に見せる姿と、
家族がいる時に他者に接する姿と、

父親は特にいろんな顔を持っているのかもしれません。

これはやはり
子供から大人へのかけ橋を渡っている時代の子には
とっても不思議で、もやもやした感じがするのでしょう。

「かけら」。
深いテーマですね。
毎日の中にある、「かけら」。

ほんの小さな、
見過ごしてしまいそうな大きさの「かけら」。

たった1つの「かけら」だけれど
それがないと、完成しないような、
大切な1ピース。

砂浜でも貝殻拾いのように
すてきな「かけら」を集めてみたくなりました。


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